THE KIYOSHI HAYAKAWA FOUNDATION

アガサ・クリスティー賞

アガサ・クリスティー賞とは

公益財団法人早川清文学振興財団と株式会社早川書房は、英国アガサ・クリスティー社の協力を得て、ミステリ小説の新人賞、アガサ・クリスティー賞を創設いたしました。
本賞は、本格ミステリをはじめ、冒険小説、スパイ小説、サスペンスなど、アガサ・クリスティーの伝統を現代に受け継ぎ、発展、進化させる総合的なミステリ小説を対象とし、新人作家の発掘と育成を目的とするものです。

主催:公益財団法人 早川清文学振興財団 株式会社 早川書房
協力:英国アガサ・クリスティー社

第七回アガサ・クリスティー賞募集要項

  • 対象 広義のミステリ。自作未発表の小説(日本語で書かれたもの)
  • 応募資格 不問 
  • 枚数 長篇 400字詰原稿用紙400~800枚(5枚程度の梗概を添付)
  • 原稿規定  原稿は縦書き。鉛筆書きは不可。原稿右側を綴じ、通し番号をふる。ワープロ原稿の場合は、40字×30行もしくは30字×40行で、A4またはB5の紙に 印字し、400字詰原稿用紙換算枚数を明記すること。住所、氏名(ペンネーム使用のときはかならず本名を併記する)、年齢、職業(学校名、学年)、電話番号、メールアドレスを明記し、下記宛に送付。
  • 応募先 〒101-0046 東京都千代田区神田多町2-2 株式会社早川書房「アガサ・クリスティー賞」係
  • 締切 2017年1月31日(当日消印有効)
  • 発表 2017年4月に評論家による一次選考、5月に早川書房編集部による二次選考を経て、7月に最終選考会を行ないます。結果はそれぞれ、本ホームページ、早川書房「ミステリマガジン」「SFマガジン」で発表いたします。
  • 選考委員 北上次郎(評論家)、鴻巣友季子(翻訳家)、藤田宜永(作家)、早川書房ミステリマガジン編集長
  •  正賞/アガサ・クリスティーにちなんだ賞牌、副賞/100万円
  • 授賞式 2017年11月開催予定
  • 出版・諸権利 受賞作は早川書房より単行本として刊行される。出版権(文庫化及び電子書籍化を含む)ならびに雑誌掲載権は主催者に帰属し、出版に際しては規定の使用料が支払われる。
    テレビドラマ化、映画・ビデオ化等の映像化権、その他二次的利用に関する優先権は主催者が有する。 

*応募原稿は返却いたしません。必要な方はコピーをお取り下さい。
*他の文学賞と重複して投稿した作品は失格といたします。
*ご応募は1人1作品に限らせていただきます。
*応募原稿や審査に関するお問い合わせには応じられません。
*ご応募いただきました書類等の個人情報は、他の目的には使用いたしません。

〒101-0046
東京都千代田区神田多町2-2 
(株)早川書房内 アガサ・クリスティー賞実行委員会事務局
TEL:03-3252-3111
FAX:03-3254-1550
Email:christieaward@hayakawa-online.co.jp

第六回アガサ・クリスティー賞選考結果

2016年7月11日(月)、第六回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、清水直樹・ミステリマガジン編集長の4名により行なわれ、協議の結果、次の通り決定いたしました。

本賞/該当作なし

優秀賞/春坂咲月『花を追え』

贈賞式は11月22日(火)に東京・信濃町の明治記念館にて執り行なわれます。また、詳しい選考過程、選評は追って当ホームページに掲載いたします。

<優秀賞『花を追え』あらすじ>
下駄の鼻緒が切れた着物の青年・宝紀に、運命的に出会った高校生・八重。彼女は着物にまつわる謎の解明を宝紀に頼むのだが……。着物/和の謎と薀蓄が鮮やかにちりばめられた連作短篇集。

<優秀賞受賞者紹介>
春坂咲月(はるさか さつき)
1968年生。48歳。兵庫県神戸市出身。現在宮城県在住。現在の職業は大学非常勤講師。
 

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第六回アガサ・クリスティー賞二次選考経過

第六回アガサ・クリスティー賞の二次選考が終了しました。早川書房編集部による厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、7月に選考委員4人(東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、ミステリマガジン編集長)による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。結果は本ホームページ及び「ミステリマガジン」「SFマガジン」にて発表いたします。

『誘拐代行業』貴志 祐方
『ブレインサイト』岡 辰郎
『花を追え』春坂 咲月
『あの唄をまた唄いませんか』そえだ 信

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。
 

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第六回アガサ・クリスティー賞選考経過

第六回アガサ・クリスティー賞一次選考結果発表

識者による厳正な審査の結果、下記17作品が通過いたしました(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、5月に早川書房編集部による二次選考、7月には選考委員4名による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。それぞれの結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房のホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」にて発表いたします。

『暁の音』大野 俊郎
『誘拐代行業』貴志 祐方
『僕らは地球に恋をした』藍沢 砂糖
『ブレインサイト』岡 辰郎
『塩の王』西 恭司
『IL― 電影妖精都市―』天原 聖海
『巨人の花嫁』香川 阿茶
『一滴の酒におぼれて』桐島 裕
『家政婦綺譚』青葉 實
『彗星の通り道』千國 愛
『冤罪の報酬』紫野 貴李
『花を追え』春坂 咲月
『変身』無邪鬼
『歯車ターンアラウンド』藤谷 弥生
『あの唄をまた唄いませんか』そえだ 信
『クルス機関』森岡 伸介
『カピテン・ユゲの星の時間』宮代 匠

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第五回アガサ・クリスティー賞贈賞式を開催

2015年11月19日、明治記念館において、第5回アガサ・クリスティー賞の贈賞式、祝賀会が執り行われました。
本年よりハヤカワSFコンテストとの同時開催となった会場は、クリスティー賞を『うそつき、うそつき』で受賞した清水杜氏彦さん、SFコンテスト大賞(『ユートロニカのこちら側』)の小川哲さん、同佳作入選(『世界の涯ての夏』)のつかいまことさんの三人を囲んで大盛況。

主催者の早川浩から、両ジャンルともに早川書房創立70周年に相応しい受賞作が出たという挨拶に続き、英国アガサ・クリスティー社会長でアガサ・クリスティーの実孫であるマシュー・プリチャード氏からの「清水さんの29歳という年齢は、ちょうど祖母クリスティーがデビューしたころ。清水さんが祖母のように輝かしい道を歩まれますように」との祝辞が披露されました。

続いて、クリスティー賞選考委員を代表して北上次郎氏が登壇し、「この本は売れる!」という力強い講評で会場を大いに沸かせると、受賞者の清水さんは、「今後もあらゆるジャンルの読者が楽しめるよう、物語を読む喜びのエッセンスを可能なかぎり盛り込んでいきたい」と決意を語りました。

その後、国際協力銀行総裁で『ミステリで知る世界120カ国』の著書がある渡辺博史氏の乾杯で祝賀会が始まり、ミステリ、SFの関係者が和やかに交流する場となりました。

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第五回アガサ・クリスティー賞選評

選評 東 直己

 昨夏に思いがけず腰椎圧迫骨折というアクシデントに見舞われ、長距離の移動が叶わず(デブですいません)、今回はやむなく書面での参加となった。誠に残念なことであったが、候補作を読み味わう幸せは十分に味わうことができた。
 クリスティー賞の選考は昨年に続き二度目となるが、今回は全体的にハイレベルだったという印象が強い。中でも私が最も推したのは『桜咲く頃に』だった。物語の組み立て、文章の運び、新人らしからぬ筆致で安心して読み進むことができた。気象予報官という職業をより詳しく知ることができたこと、新しい知識を得たのも楽しいことであった。今回惜しくも賞を逃したが、このまま書き続けていけば、将来に期待がもてる人だと感じた。
 受賞作となった『うそつき、うそつき』はチャーミングな設定で、独自の世界観の中で遊ばせてもらった。
『サイレント キラー』は水準に達しているが、惜しいことにいま一つ踏み込んだ魅力が感じられなかった。ただ、あのような世界を構築する筆力には感心した。
『ミセスMと西瓜の謎』は入り組んだ物語が最後まで飽きさせず、若い男女の人間関係も複雑に絡み合い、面白く読んだ。
『セイブ・ザ・クイーン』は趣向が勝り、非常に不自然なわざとらしい世界観と思えた。人によってはこういう作品が面白いのだろうが、残念ながら私の肌には合わなかった。
 以上、ざっと感想を述べてみたが、前述したようにそれぞれに明確な世界観が出来上がっており、全体的に高水準で粒ぞろいであった。クリスティー賞も五回目となり、やはりこうした企画は継続が大切なのだとしみじみ感じたことであった。他の選考委員の感想を生で拝聴することができなかったのはかえすがえすも残念であったが、候補作から発散されたミステリへの情熱ははなはだ熱く、今後への期待を抱かせるに十分なものであった。


選評 北上次郎

『うそつき、うそつき』は素晴らしい。なぜ首輪をするようになったのか、ということの歴史あるいは背景については書かれていないが、これは確信犯だろう。むしろ眼目は、そういう時代になったら人々の暮らしはどうなるか、ということのほうにある。主人公のもとに、首輪を外したいと思う依頼者が次々に現われるが、そのさまざまな事情とドラマを描くことがこの長篇の眼目であるのだ。連作ふうな構成はつまりきわめて意図的なものであり、奇想天外な話を、これほど自然に、しかも描写力と造形力をもって描き切ったことは素晴らしい。最初に出てくる少女ユリイの挿話も、切実なラストも、群をぬくうまさだ。新人賞応募作品という条件を外し、今年読んだ本というラインに並べても強く印象に残る作品であった。この作品に満点の評価をして選考会に臨んだが、他の選考委員の賛同を得て受賞したことは喜ばしい。
『セイブ・ザ・クイーン』も印象に残る作品だ。こちらは『バトル・ロワイアル』にインスパイアされた作品だが、付与したさまざまな設定がうまい。実によく考え抜かれている。さらに、最初四人の協力関係を破綻させておいて次に優姫と梓の協力を成立させるという展開もいい。つまり構成がいいのだ。キャラが徐々に立ち上がってくるとこの物語に引き込まれていくものの、人物描写がやや類型的な前半と、ナイトが思ったほど活躍しないことなどの欠点が惜しまれる。
『サイレント キラー』は老人介護の現実が物語の背後にあって身につまされるし、文章も読みやすいが、新鮮さに欠けるのが難。『ミセスMと西瓜の謎』は本筋とは関係ないところの細部がなかなか読ませるものの、少々読みにくいのが疵。『桜咲く頃に』は気象予報官を探偵役にした連作だが、最初の二本はなかなか読ませるものの、気象とは徐々に離れていく後半がやや辛い。もう少し時間をかけて練り直せばいい作品になるのではないか。


選評 鴻巣友季子

 今年の選考会が過去最高に長引いたのは、どれも手放しがたく、慎重な精査と討論が続いたからです。それぐらいレベルが上がってきています。第一に、各作品とも文章そのものが良質でした。例年、言葉づかい、口調、文体などテキストに関する点で引っかかる作品もあるのですが、今年はどれも自然に読めました。とくに第三回に続いて最終選考に残った藍沢砂糖さん『セイブ・ザ・クイーン』の文章面での上達は目覚ましいものがありました。
 気象予報官を探偵役に据えた『桜咲く頃に』は、まさにテクスチャーの良い、構成の端正な七篇の連作ミステリ。一篇ごとに大きく盛り上げていくダイナミズムがもう少し加わるとドライブ感が出るのでは。『サイレント キラー』も、高齢化社会における老人介護施設をうまく活かして書かれていました。手堅い作風ですが、今書かれるべきフォーカル・ポイントがもっと明瞭になると良いですね。
『セイブ・ザ・クイーン』は基本的には『バトル・ロワイアル』系譜のデスゲームで、ミステリ色は強くありませんが、迫力のある筆致でぐいぐい読ませます。「離脱」というコンセプトを導入し、駆け引きの妙味を添えました。作者は強いモチーフを持っているようなので、文章、文体面が調ってくると、今後がぜん強みを発揮するでしょう。『ミセスMと西瓜の謎』は大学のミステリ研究会で過去に発行された同人誌を題材にするという、一見地味なミステリですが、凝った入れ子構造の佳作です。同窓生をめぐるフレームストーリーがあり、「西瓜」という同人誌掲載の作中作ミステリがあり、その中に出てくる落語「黄金餅」がある。最後のアームチェア・ディテクティヴのどんでん返しもなかなかです。殺意の有無とそのありかを敢えてぼかし、登場人物ほぼ全員にある種の悪意をもたせ、それが明確な方向性なく渦巻いているさまは、じつに不気味です。しかしその「曖昧であることの怖さ」はもっと明瞭に浮かびあがらせる必要があると思います。受賞作の『うそつき、うそつき』は孫悟空ばりのウソ摘発の首輪を装着させられた近未来の管理社会を描くディストピア小説です。首輪の仕組みのディテールもよく描きこまれ、次々と登場する「依頼人」のバックグラウンドもおもしろく、連作短篇的なテンポの良さもある。時間軸を二つ設定していますが、少し近すぎる感があり、もっと広くタイムスパンをとることで、さらに深い情感を生みだせるでしょう。何と戦っているのかわからない漠然とした不安感が良いので、前段にも書きましたが、「漠然としている嫌な感じ」をもっとヴィヴィッドに伝えてください。ラストで主人公が見る景色を見た瞬間、私は涙が止まらなくなりました。


選評 清水直樹(ミステリマガジン編集長)

最終選考作五作のうち、時代を近未来に設定したものが二作あった。『うそつき、うそつき』と『セイブ・ザ・クイーン』であり、今回はこの二作が高評価を得ていた。それに加えて、東氏が推した『桜咲く頃に』、正統的なミステリである『ミセスMと西瓜の謎』、つまり五作中四作に受賞の可能性があったが、選考の結果、『うそつき、うそつき』が第五回の受賞作に決定した。
 近未来ものの二作は、いずれも大きな変化が起こった社会を設定し、その状況下でストーリーが展開される。受賞作となった『うそつき、うそつき』は、嘘発見器としての首輪の着用が義務付けられたある国の物語。だが、社会の問題点や未来の人類の姿を描くといった、いわゆるディストピアSFではなく、主眼はあくまでその社会で主人公がいかに悩み、成長していくかにある。そして、その瑞々しい描かれ方がなによりもいい。凝った設定もミステリとして回収されており、瑕は感じられなかった。受賞作にふさわしい作品と評価した。
 近未来もののもう一作は『セイブ・ザ・クイーン』。女王制の敷かれた架空の日本で、ある都市を舞台に新女王の座をめぐってデス・ゲームが繰り広げられる。同じ近未来ものでも受賞作と読み味は異なり、サスペンス、アクション小説として読ませる。その分、ミステリとしては弱く、受賞には届かなかった。
『ミセスMと西瓜の謎』は、バランスの良さは候補作随一だったと思う。作中作の仕掛けもよく書かれており、受賞作とどちらを推すかは最後まで悩んだ。だが、欠点は少ないものの、特出したところ、新味に乏しいのが気になり、最終的には次点とした。
『サイレント キラー』は、老人を主人公にしたユニークな作品。介護保険制度など現代社会が抱えている諸問題を盛り込んでいて読ませる部分もあるが、本来、主眼となるべきサスペンス性が弱いのが気になった。
『桜咲く頃に』は、気象予報官を探偵役にした連作短篇集。個々のエピソードはうまくまとまっているが、それぞれに重いテーマを孕んでいるにもかかわらず、謎に奉仕しすぎで扱いが軽く感じられた。

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第五回アガサ・クリスティー賞選考結果

2015年7月10日(金)、第五回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、清水直樹・ミステリマガジン編集長の4名により行なわれ、協議の結果、受賞作が次の通り決定いたしました。

清水 杜氏彦『うそつき、うそつき』

贈賞式は11月19日(木)に東京・信濃町の明治記念館にて執り行なわれます。また、詳しい選考過程、選評は追って当ホームページに掲載いたします。

<『うそつき、うそつき』あらすじ>
嘘発見器としての首輪着用が義務付けられた近未来の日本。首輪除去の技術を持った青年フラノは、様々な事情を抱える人々からの依頼を請け負ううちに、自らの出自の秘密を知る。

<受賞者紹介>
清水 杜氏彦(しみず としひこ)
1985年、群馬県生まれ。千葉大学大学院工学研究科修了。2015年6月「電話で、その日の服装等を言い当てる女について」で第37回小説推理新人賞を受賞。
現在、千葉県在住。

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第五回アガサ・クリスティー賞二次選考経過

第五回アガサ・クリスティー賞の二次選考が終了しました。早川書房編集部による厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、7月10日に選考委員4人(東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、ミステリマガジン編集長)による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。
結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房ホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」でも発表いたします。

『セイブ・ザ・クイーン』藍沢 砂糖
『桜咲く頃に』小早川 真彦
『サイレント キラー』神谷 いずみ
『うそつき、うそつき』清水 杜氏彦
『ミセスMと西瓜の謎』瀧本 正和

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第五回アガサ・クリスティー賞選考経過

第五回アガサ・クリスティー賞一次選考結果発表

識者による厳正な審査の結果、下記15作品が通過いたしました(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、5月に早川書房編集部による二次選考、7月には選考委員4名による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。それぞれの結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房のホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」でも発表いたします。

『ヘルマンの挽歌』稲場 秀樹
『セイブ・ザ・クイーン』藍沢 砂糖
『奈落の星(エトワール)』三上 日登美
『桜咲く頃に』小早川 真彦
『サイレント キラー』神谷 いずみ
『胴元の誤算』前田 海
『花の記憶』八木 敏安
『誘拐師はなぜ不動産を要求したか』水原 徹
『微睡て』藤田 怜央
『うそつき、うそつき』清水 杜氏彦
『アザミの咲く庭』桐島 裕
『雪の贈り物(轟警部事件日記)』本間 政毅
『シヴァとダイヤモンド』しまだ 麻希
『ミセスMと西瓜の謎』瀧本 正和
『異説忠臣蔵~徳川綱吉の陰謀』高山 怜

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第四回アガサ・クリスティー賞贈賞式を開催

2014年10月24日、明治記念館において、作家、評論家など多くの方々にご列席いただき、第四回アガサ・クリスティー賞の贈賞式と祝賀会を開催いたしました。

受賞作『しだれ桜恋心中』(出版に際して『傀儡呪』を改題)のイメージを髣髴とさせる桜の花模様をあしらった振り袖姿で受賞者の松浦千恵美さんが壇上に登り、会場からの拍手がひときわ大きくなる中、当財団代表理事早川浩よりクリスティーの肖像を刻んだ正賞の盾と賞金が贈られました。

選考委員を代表して鴻巣友季子氏から、選考経過とともに講評が披露されました。
「わたしのメモには、『むちゃくちゃで呆れました(笑)。最高です』とあります。もちろん、『呆れた』というのは最高の賛辞です」と受賞作の第一印象から話し始められ、
「人形浄瑠璃を題材にした異色のホラー・ミステリ―として、無謀とも言える語りのパワーが本作の魅力であり、この作者の強みではないかと思う」と受賞作を評価されました。

続いて受賞者の松浦さんが登壇。感激に言葉を詰まらせながら、ご家族、ご友人への感謝を述べ、その想いに応えられるようにこれからも貪欲に作品を書き続けていきたいという意欲を示されました。最後に「これからの私に期待してください」という力強い言葉で受賞の挨拶が結ばれました。

贈賞式にあたり、今年も協力いただいている英国アガサ・クリスティー社会長で、アガサ・クリスティーの実孫であるマシュー・プリチャード氏よりお祝いのメッセージが届きました。

I am delighted to welcome the winner of the 4th Agatha Christie award,which commemorates the long partnership between my grandmother Agatha Christie and Hayakawa publishing.
I am told that Ms Chiemi Matsuura' book is one of the most daring ever to have been submitted for the award, and is a very worthy winner. Bravery  innovation and intrigue were also at the
heart of Agatha's books and it sounds as if the winner has entered into the spirit of the competition . I would like to thank all the entrants to the competition and all those involved in organising it

Regards
Mathew Prichard.


早川書房と祖母の長年の友好関係を記念して創設された「アガサ・クリスティー賞」の第四回の大賞決定、おめでとうございます。
今回の松浦千恵美さんの受賞作は、応募作品の中でももっとも大胆で、大賞に相応しい作品と聞いております。前例にとらわれない新しい謎を生み出すことこそ祖母アガサ・クリスティーの真髄です。その意味でも今回の受賞作は本賞の精神に則ったものと言えるでしょう。応募してくださった皆さん、選考に関わった皆さんに感謝の意を表します。

アガサ・クリスティー社会長
マシュー・プリチャード

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第四回アガサ・クリスティー賞選評

選評 東 直己

「誰がどう考えたって、『スクールズ・アウト!』がトップだろう」という意気込みで選考会に挑んだ。俺としては万全の態勢である。で、先行会場への廊下を歩いてたら、後ろで、「あのほら、『スクールズ・アウト!』だったっけ? 何を書きたかったんだろうな」
 俺は非常に驚いた。満場一致で『スクールズ・アウト!』に決まる、と思っていたからだ。
「地味な作品だったね」
 なるほど。地味か。しかしまた、「地味」は折り目正しさに通じる。他の候補作は皆、文章がメチャクチャで、安心して読めなかった。
 文章ってのは、まずは手入れの行き届いた器だ。これが汚れていたり、前に使った人間の口の跡が残っていたりしたら、物語を堪能できない。中で唯一、『スクールズ・アウト!』はきちんとした文章で物語が綴られていた。
 で、トップに推したが、皆の賛同を得られず、残念だった。
 とにかく、文章をナメてはいけない。
 以下、各作について一言ずつ。
『傀儡呪』、現代日本の刑事ふたりが、なんの疑問もなく「呪い」の存在を受け入れるのが奇妙。
『三番目の夜』、外国文化と甘味食物しか頭にない人々のジャレ合い。そう思えば、読めないこともない。
『ブルー・ペーパー』、今の我々は、こういう話を読むと「大企業ってそんなもん」と思っちゃう。作者の落ち度じゃないけれど。
『星たちの綻び』、冒頭は本当に魅力的。どういう世界だろうとワクワクしたが、脱出のあたりから話がわざとらしくなって終わってしまった。残念。


選評 北上次郎

『星たちの綻び』は格闘シーンがいい。知らない間に手がぶらっとしているというリアルが行間から立ち上がってくる。しかし犯人の動機にも計画にも説得力がなく、檸檬の捜査報告を電話で聞くだけとの校正も安易。それに凜々の親が中国裏社会のボスであったりと、不必要な道具立てが多すぎるのも難。
『ブルー・ペーパー』にもそういう不自然さがある。まず主人公の捜査に全員が素直に協力するという結構が不自然だ。捜査権のない人間が聞きまわるのだから、中には相手にしないやつもいるのが普通だと思うがそうすると物語が進行しなくなるということだろう。それに根本の計画にも無理があるし、文章が類型的であるのも気になる。
『スクールズ・アウト!』は、親の不在を隠すために第三者に母役を演じてもらうという挿話の描き方がいい。センスのある書き手だなという印象が強い。問題はこういう細部はよくても、父と母の再登場とその裏の事情など作りすぎの感があり、全体的に不自然さが目立つことだろう。
『三番目の夜』は文章が類型的との指摘があったが、私はさほど気にならなかった。それに人間関係もそれなりに描けていると思う。問題はミステリーとしての弱さにある。それでもこの手の小説を苦手とする私に理解できないだけかもしれないので積極的に推す委員の方がいればじっくり推薦の弁を聞こうと思ったが、そういう方もいなかった。
 ということで受賞作の『傀儡呪』になるのだが、これは怒りだす読者がいるかもしれない。なんなんだこれ! と。しかし圧倒的に楽しかったのでこれを推すことにして選考会に臨んだ。でも、こんなヘンな作品を推すなんてオレだけだろうな、ま、それも当然かも、と思っていたら、なんとみなさんの賛同を得たからびっくり。間違いを始め、欠点が散見するのでそれらを直すことを条件に受賞が決まったのだが、手垢のついた素材を人形を媒介にすることで新鮮な風景に一変する鮮やかさに注目したい。


選評 鴻巣友季子

 バライティに富んだ五作でした。読んだ順に書きます。梗概やタイトルを読んで、読みたい気にさせるかどうかも重要です。『スクールズ・アウト!』は学園ものにミステリを掛け合わせた青春小説。『星たちの綻び』は画家が格闘技界に変貌していく闘魂ミステリ。『三番目の夜』は日本美術に材をとった本格推理小説の連作集。『ブルー・ペーパー』は自動車業界の内部に切りこむ企業小説。『傀儡呪』は人形浄瑠璃を題材にした異色のホラー・ミステリ。
 最高点をつけた『傀儡呪』はまず素材が人形浄瑠璃というのが、ミステリでは割合目新しいというのもプラスでした。ちなみに、学園もの、美術もの、企業ものは先行作が無数にありますから、その中で勝ち残るためにはかなりの仕込みが必要です。ただ、この「傀儡呪」、ミステリと言っていいのだろうか、というのが懸念といえば懸念。しかしわたしのメモには、「むちゃくちゃで呆れました(笑)。最高です」とあります。もちろん、「呆れた」というのは最高の賛辞です。
 主な問題点は二つでした。一つは時間的な構成。もう一つの方が要で、これは本の刊行時に、作品の前提として公表されるでしょうから書きますが、花魁人形が喋ったり動いたりすること。その声を聞いた主人公と人形の一対一の交信であれば、心の領域に留めておけるが、視点人物以外を含めた複数で会話をするとなると、小説の情報の出し方としては、〈現実〉として解釈しないと、叙述法としてのバイオレーションが生じします。そして〈現実〉に人形が喋ると、「ファンタジックなミステリ」という領域から逸脱してホラーになってしまうのでは? という疑問は残りましたが、むしろ新しい挑戦として評価されました。
 人形と人間は業を映しあい移しあうから、こうした題材は恐ろしくも面白くもなります。細部の整合性などは若干手直しの必要を感じましたが、無謀とも言える語りのパワー、これが本作の大きな魅力であり、この作者の強みではないかと思っています。
 他の作品にもふれると、好みという点では『三番目の夜』。暗号やからくり箱、双子など、古典的トリックを網羅し、西洋美術、バロック音楽、フランス文学まで絡めた力作ですが、「私」のない一人称口語文体はその滑りの良さがプラスにもマイナスにもなっています。文体は単なる物わではなく命脈そのものです。ご一考を。


選評 清水直樹(ミステリマガジン編集長)

 五作の最終候補作のなか、選考委員が最高点を付けた作品は二作あった。東氏が推した『スクールズ・アウト!』と他の三名が推した『傀儡呪』である。この二作に絞って選考が行われ、『傀儡呪』が第四回の受賞作に決定した。
 私が最高点を付けた『傀儡呪』は文楽の世界を舞台にした(ネタから考えると)ホラー風味の作品と言えるだろうが、読み味はミステリ以外のなにものでもない。ただ、ミステリとしては前代未聞の結末と言っていいだろう。古典芸能という閉ざされた世界の雰囲気がよく書けており、そこで描かれる濃密な人間関係にも惹かれた。文章的なこと、核心に関わる部分など、気になる点は各委員によってさまざまあり、その指摘がどのように治っているのか、単行本を読むのを楽しみに待ちたい。
『ブルー・ペーパー』は、自動車業界の欠陥車問題を扱った作品で、ストーリィの流れは良く、最後までひっかかることなく読めた。ただ、主人公とヒロインの行動や言動が時代がかっているところが気になった。思い切って時代を昭和に設定して書き直してみると、もっと説得力のある作品になるかもしれない。
『三番目の夜』は、学生画家と女子大生を主人公にした美術テーマの連作長編。二人のキャラ設定や会話は楽しく読みやすい。一方で軽すぎる嫌いがあり、先行作との比較でやや採点が辛くなった。『ブルー・ペーパー』とこの『三番目の夜』が私としては次点。
『スクールズ・アウト!』は、男子高校生を主人公にした学園小説。破綻はなく文章も読みやすい。ただ、ライトノベル的な書き方のせいか、人物、ストーリィ、描写など全体的にボリューム不足、物足りなさを感じた。
『星たちの綻び』は、自らも覚えていない罪で精神病院に収容された男の復讐を描いた作品。格闘シーンをはじめ、書きたい要素を楽しんで書いているのは伝わってくる。ただその分、冗長な印象を受けるのも確か。プロットを整理すると良くなるのではないか。

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第四回アガサ・クリスティー賞選考結果

第四回アガサ・クリスティー賞選考結果
2014年7月8日(火)、第四回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が、選考委員の東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、清水直樹・ミステリマガジン編集長の4名により行なわれ、協議の結果、松浦千恵美氏の『傀儡呪』が受賞作に決定いたしました。

第四回アガサ・クリスティー賞

松浦千恵美 『傀儡呪(くぐつじゅ)』

10月24日(金)、明治記念館において贈賞式を執り行います。
また、詳しい選考過程、選評は、後日当ホームページに掲載いたします。

<『傀儡呪』あらすじ>
惨殺体で発見された文楽の人形遣いの傍らには、小刀が胸に刺さった浄瑠璃人形が転がっていた。
刑事の横田は奥深い伝統芸能の世界に分け入っていく。
異色のホラー・ミステリ。

<受賞者紹介>
松浦 千恵美(まつうら ちえみ) 
1965年東京都生まれ。音楽業界を経て現在、大学職員。東京都在住。

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第四回アガサ・クリスティー賞二次選考経過

第四回アガサ・クリスティー賞二次選考結果発表

第四回アガサ・クリスティー賞の二次選考が終了しました。厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。

この後、7月8日に最終選考委員4人(東直己氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、ミステリマガジン編集長)による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。

選考結果は、当財団のホームページで発表いたします。

また早川書房ホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の9月号(7月25日発売)でも発表いたします。
また「ミステリマガジン」10月号(8月25日発売)には詳しい選考経過を掲載いたします。

『星たちの綻び』 阿部 慶次
『スクールズ・アウト!』 秋元 雅人
『三番目の夜』 春坂 咲月
『ブルー・ペーパー』 朝倉 渉
『傀儡呪』 松浦 千恵美

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第四回アガサ・クリスティー賞一次選考経過

第四回アガサ・クリスティー賞一次選考結果発表

識者による厳正な審査の結果、下記15作品が通過いたしました(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、5月に早川書房編集部による二次選考、7月には選考委員4名による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。それぞれの結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房のホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の8月号(6月25日発売)、10月号(8月25日発売)にて発表いたします。

『パープル・ムーン』黒澤 主計
『恨み節』桜田 聖人
『明日への盟約~もうひとつの日本~』時任 兼作
『星たちの綻び』阿部 慶次
『ジャンヌ、聞こえますか』野島 夕照
『ヴィランズ トラジ=コメヂ』方丈 貴恵
『ツイン・ドリーム』山田 ヲマビル
『優しい手でこころを包んで』八重沢 知久
『いいひと倶楽部』大町 晋
『マスター』篠山 静
『三番目の夜』春坂 咲月
『スクールズ・アウト!』秋元 雅人
『ミート・ゲーム』柴 古都子
『ブルー・ペーパー』朝倉 渉
『傀儡呪』松浦 千恵美

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第三回アガサ・クリスティー賞贈賞式を開催

2013年10月22日、明治記念会において、作家、評論家など200名近い方々にご列席いただき、第三回アガサ・クリスティー賞の贈賞式を開催いたしました。

受賞作『コンダクターを撃て』(出版に際して『致死量未満の殺人』に改題)の著者三沢陽一氏に、当財団代表理事早川浩よりクリスティーの肖像が刻まれた正賞の盾と副賞100万円が贈られました。
選考委員を代表して有栖川有栖氏から、「候補作には一長一短があり、選考には時間を要したが、『まっすぐなミステリで楽しいわ。これになさい』というデイム・アガサの声が聴こえた気がして、他の委員とともに授賞に賛成した」と選考経過と講評が披露されました。

続いて受賞者の三沢氏が登壇、「アガサ・クリスティー賞受賞作で作家としてデビューできることをたいへん嬉しく思います」と受賞の喜びを語りました。

贈賞式にあたり、協力頂いている英国アガサ・クリスティー社の会長でありアガサ・クリスティーの実孫であるマシュー・プリチャード氏から今年もお祝いのメッセージが届きました。

I am pleased to announce the 3rd winner of the Japanese Agatha Christie award, sponsored by Hayakawa Publishing Corporation.  The winner is Mr. Yoichi Misawa and it is called "Murder by Non-Lethal Dose".  I hope this means a continuation of my grandmother Agatha Christie's well-known interest in poison.  I wish the author every success with his book.
Most of all, I am pleased that this event reflects the continuing popularity and success of Agatha Christie in Japan, and I congratulate Hiroshi Hayakawa and his company on their continuing efforts to support this.
Mathew Prichard
Chairman
Agatha Christie Ltd


早川書房と早川清文学振興財団が主催する第三回アガサ・クリスティー賞を皆様にお知らせできることをうれしく思います。今年の受賞作、三沢陽一さんの『致死量未満の殺人』は、その題名が示す通り、祖母アガサ・クリスティーのつとに有名な毒薬への関心を現代に受け継いだ作品です。三沢さんの今後の活躍を祈ります。
そして、何よりもうれしいのは、本賞が象徴しているように、日本におけるアガサ・クリスティーの人気と情熱がこうして永く続いていることです。早川浩社長と早川書房のたゆまぬ努力と支援に感謝します。
2013年9月27日
アガサ・クリスティー社会長
マシュー・プリチャード

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第三回アガサ・クリスティー賞選評

選評 有栖川有栖
 タイプの異なる五編の候補作に一長一短があり、各委員の意見も分かれて選考には長時間を要したが、最後には『コンダクターを撃て』を受賞作とすることで一致をみた。
 雪の山荘で起きた毒殺事件の謎を十五年後に関係者が推理し、意外な真相が掘り出される―というアガサ・クリスティー風の本格ミステリだ。毒殺トリックという地味なテーマに食い下がり、よく書き抜いている。中盤の単調さ、ツイストの説得力の弱さなどの不備もあるが、「まっすぐなミステリで楽しいわ。これになさい」というデイム・アガサの声が聴こえた気がして、他の委員とともに授賞に賛成した。なるべく早く第二作を読ませていただきたい。
 他の候補作について短くコメントする。
『セオイ』は、人間の人生を改変する能力〈セオイ〉を持ち込んだ特殊設定ミステリ。その力の源泉や限界などが明らかではないので、物語の土台が弱い。時間SFやファンタジーとしても高水準にあるとは思えなかった。
『佳人の死』は、公安警察と学生運動家の闘争をスパイ小説風に描き、舞台は平成の初めと二十年後に跨る。意外性を狙った部分が不発なのは残念。隠語まみれの会話だけで公安マニアは喜ぶかもしれないが、エンターテインメントとして突き抜けたところがなく、「だから今これを書く」という作者のスタンスや同時代性も伝わってこなかった。
『摂氏九十九度のアンビエント』は、子供殺しを扱ったバッドテイストな作品。二回三回とプロットに捻りを加えているのはよいのだが、狂気の描き方に深みがなく、構成が未整理で冗長になっていた。
『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』は、奇怪な通り魔殺人に留学中の白洲次郎が挑む。実在の人物が交錯し、ペダンチズムや洒落っ気が微笑ましいのだが、筆力が伴っていないため、中腰でフレンチのディナーを食べているよう。暴走ぶりに魅力も感じるので、化けて欲しい。


選評 北上次郎
 私が最高点をつけたのは、世奈佳三氏の『セオイ』。ただし、欠点の多い作品なので推し切れなかった。やや破天荒すぎるので他の選考委員の賛同を得られなかったのも止むを得ない。
 しかし、印象深い一枚の「絵」を作り上げることが小説だと私は考えている。読み終えたあとにその「絵」が残り続けること―それこそが小説を読むことの醍醐味だと考えている。ミステリであってもその事情はかわらない。その観点から考えると、とても印象深い絵がラスト近くに立ち現れるこの長篇は素晴らしい。その一点で私はこの長篇を支持する。出来れば、改稿して世に問うことを期待したい。
 いちばん読ませたのは、森岡伸介氏の『佳人の死』。現在と二十年前を交互に描く構成が決まっているし、入り組んだ話を整理する仕方もうまい。交番に弁当を届ける老婆の挿話に見られるように、何気ないディテールもそこそこうまい。国内の公安活動を描くスパイ小説として水準の出来は保っている。問題は、新鮮さに欠ける点だろう。新人賞に応募するなら、もう少し破綻があってもいいから突き抜けてほしい。それが惜しまれる。
 桃永夏兎氏の『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』は、黄金比やらせんの話は面白いが、残念ながら前半を引っ張る力が弱い。昨年の受賞作に似たトーンを持つ作品だが、そこまでの強烈さもなく、比較されるのも損。
 秋元雅人氏の『摂氏九十九度のアンビエント』は、いかにも長すぎるのではないか。不必要なくだりが多すぎる。そのために物語に切れがない。もっと整理して刈り込めばよくなると思う。
 受賞作の三沢陽一氏『コンダクターを撃て』は、『セオイ』の次に高得点をつけた作品なので、この長篇が受賞することに異論はない。とても興味深く読んだ。一気に読ませて飽きさせない。ただし、この文章はどうか。これは好みでわかれるかもしれないが、こういう大仰な文章は好きではない。


選評 鴻巣友季子
 今年は警察を舞台にとりいれたものが多く、スタイルとして伝奇SF、スパイ小説、本格ミステリ、サイコキラーもの、歴史哲学ロマン……と様々な形に仕上げ、一定の水準をたもっていました。頭抜けた作品がなかったとも言えます。採点を集計してみると、全候補作が中間ゾーンに入ってしまった。このとき総合点が最も高かった作品には、抜きんでた評価(9段階の7以上)を付けた委員がいなかったため、授賞は見送られました。
 結局、賛否意見の分かれた『セオイ』と『コンダクターを撃て』の二作が残り、後者に決まりましたが、実は最初の総合点は僅差ながら受賞作が最も低かったのです。しかし大風呂敷を広げず身近な素材を丁寧に扱っていること、エピソードの慎重な積み重ね、運に左右される難点はあるもののトリックの面白さ、やや修辞に走る面はあるものの自分の文章を築こうとする姿勢などが評価されました。標準的に仕上がったものより、短所があっても、書き直しと推敲を重ねて良くなると感じさせました。
『佳人の死』は過激派の事件を題材に、公安警察と捜査協力員の「タマ」を中心に描く力作ですが、刑事部に「ジ」部、ヘロインに「あったかいの」、警察庁に「もっとうえ」といった隠語のルビを多用するのは逆効果。ルビ技は日本の翻訳文化ならではの武器とはいえ、濫用にはご注意を。『摂氏九十九度アンビエント』は序盤からunreliable narratorの気配をうっすら漂わせ、母という名の病を描いて引きこみますが、母の虐待動機に些か無理があり、最大の難点は詰めの謎解きに出てくるオルター・エゴ的なものでした。『セオイ』は奇抜なタイムワープもので、強く推す声もありました。他人の人生を引き受ける〈セオイ〉の世界観の作り込み不足の観があり、日常と超常の接合にもう一息の工夫を期待。
『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』はヴィトゲンシュタイン、ソシュール、ヴェルヌなどを鏤めた良い意味でキッチュさのある作品ですが、誤字脱字が多く、読めない部分があったのと、文学、哲学などの引用がやや取ってつけたようなのが残念です。誤字脱字と引用の二点については、今年の他の候補作の多くに共通することです。エピグラフ、引用、引喩には、自分の中でぐっと抑えて抑えてそれでも滴り落ちる「黄金の雫」だけを使ってください。


選評 小塚麻衣子(ミステリマガジン編集部)
 三回目にして選考会は紛糾した。それだけ各候補作の実力が拮抗していたのだ。話し合いの末、アガサ・クリスティーという名を冠した賞にふさわしい作品として、『コンダクターを撃て』を全員一致で受賞作とした。
 さて、その受賞作は、雪の山荘の毒殺事件を時効になる十五年後に当時の容疑者たちが掘り起こすという正統派の端正な本格ミステリ。とくに犯人が毒殺にいたる過程の綿密な描写と何度も思考実験を繰り返したであろう精緻なトリックが光った。著者のミステリに対する誠実さが透けてくるような作品だ。ゆくゆくは大クリスティーにならって、登場人物たちの変幻自在な心理ドラマなども取り入れていけるとよいと思う(おそらく著者の志向としては潜在している)。
 惜しくも落選した『セオイ』も捨てがたい魅力があった。人生の分岐点を選び直させることのできる〈セオイ〉という特殊能力を持つ主人公が、やがて世間を騒がす連続見立て殺人事件に巻き込まれていく。〈セオイ〉の能力を説明するエピソードの積み重ねが巧く、キャラクター立ちもよかった。ただ前半と後半で連続殺人が作品のトーンをどぎつく変えており、無理に絡めてミステリにしなくてもよかったのではとも思ってしまった。
 あとは簡単に。『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』は、文章も推理の過程もメチャクチャなのに読まされてしまうのは作品の持つチャーミングさゆえ。著者には「落ち着いて!」と心からアドバイスしたい。『摂氏九十九度のアンビエント』は、信頼できない語り手の不穏な筆運びは良かったが、主人公の特殊な職業設定が活かしきれておらず、もったいなかった。『佳人の死』は、情報量が多く、それらを練り込んだ構成もしっかりしていたが、社会派のテーマに対して、なぜいまこの時代設定なのかという疑問が拭いきれなかった。
 ところで今回、複数作にクリスティーやその作品が登場する謎の目配せがあった。嬉し
くないわけではないが、あの、クリスティーがそうだったように、もっと自由にいろんなミステリを書いて下さっていいんですよ?

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第三回アガサ・クリスティー賞選考結果

2013年7月9日(火)、第三回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が、選考委員の有栖川有栖氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、小塚麻衣子・ミステリマガジン編集長の4名により行なわれ、協議の結果、三沢陽一氏の『コンダクターを撃て』が受賞作に決定いたしました。

第三回アガサ・クリスティー賞
三沢陽一 『コンダクターを撃て』

贈賞式は10月22日(火)明治記念館において贈賞式を執り行います。
また、詳しい選考過程、選評は、後日当ホームページに掲載いたします。

<『コンダクターを撃て』あらすじ>
吹雪の山荘で起きた女子大生の毒殺事件。
時効が目前に迫った15年後、一人の同級生が犯行を告白した。
巧緻な謎とプロット。
アガサ・クリスティーに捧げる本格ミステリ。

<受賞者紹介>
三沢 陽一(みさわ よういち) 
1980年、長野県岡谷市生まれ。東北大学大学院法学研究科修士課程修了。同大学研究助手などの仕事をしながら各種文学賞に投稿し、本書がデビュー作となる。
宮城県仙台市在住。

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第三回アガサ・クリスティー賞二次選考経過

第三回アガサ・クリスティー賞二次選考結果発表

第三回アガサ・クリスティー賞の二次選考が終了しました。早川書房編集部による厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。

この後、7月9日に選考委員4人(有栖川有栖氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、ミステリマガジン編集長)による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。

選考結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房ホームページ(http://www.hayakawa-online.co.jp/)および、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の9月号(7月25日発売)でも発表いたします。
また「ミステリマガジン」10月号(8月25日発売)には詳しい選考経過を掲載いたします。

『セオイ』世奈 佳三
『コンダクターを撃(う)て』三沢 陽一
『摂氏九十九度のアンビエント』秋元 雅人
『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』桃永 夏兎
『佳人の死』森岡 伸介

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。
 

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第三回アガサ・クリスティー賞選考経過

第三回アガサ・クリスティー賞の第一次選考が終了しました。識者による厳正な審査の結果、下記15作品が通過いたしました(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、5月に早川書房編集部による二次選考、7月には選考委員4名による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。
それぞれの結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房のホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の8月号(6月25日発売)、10月号
(8月25日発売)にて発表いたします。

『セオイ』世奈 佳三
『7人のゴブリン(悪戯な精霊)』岡島 明
『ヴィルゲンアルストラ卿の究極レシピ』在神 英資
『コンダクターを撃(う)て』三沢 陽一
『鳴く鹿の声聞くとき』松嶋 チエ
『迷宮法廷』馬頭 晶
『スクランブル交差点』嵐林 眼
『ラ・リューシュ~レジェと蜂の巣と~』平 悠
『摂氏九十九度のアンビエント』秋元 雅人
『源流、支流、そして合流』星 和夫
『ヘルズ・キャッスル』篠山 静
『VINTAGE ケンブリッジの切り裂きジャック』桃永 夏兎
『佳人の死』森岡 伸介
『クロニクル』柴 古都子
『春葬』    紅茶 風味

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

 

第二回アガサ・クリスティー賞贈賞式を開催

2012年10月29日、明治記念会において、作家、評論家など200名を越える方々にご列席いただき、第二回アガサ・クリスティー賞の贈賞式を開催いたしました。

受賞作『カンパニュラの銀翼』の著者中里友香氏に、当財団代表理事早川浩よりクリスティーの肖像が刻まれた正賞の盾と副賞100万円が贈られました。
選考委員を代表して北上次郎氏から、「満場一致でありました。こういう小説を読めたことを一人の読者として嬉しく思っていて、ここではむしろ中里さんにお礼を申し上げたい。よくぞクリスティー賞に応募してくださった」と選考経過と講評が披露されました。

続いて受賞者の中里氏が登壇、「受賞の連絡をいただいた七月は作品が評価されたということが嬉しかったが、刊行された今はアガサ・クリスティー賞を受賞できたということを嬉しく思っています」と受賞の喜びを語りました。

贈賞式にあたり、協力頂いている英国アガサ・クリスティー社の会長でありアガサ・クリスティーの実孫であるマシュー・プリチャード氏からもお祝いのメッセージが届きました。

I was so pleased to hear that Ms Yuka Nakazato has been announced as the winner of the 2nd Agatha Christie award.
Such a distinguished book and winner will ensure that crime writing in Japan will continue to flourish.
The Queen of Crime herself, my Grandmother Agatha Christie, would have been very pleased about that.
My best wishes to the winner, all the other contestants, Hiroshi Hayakawa and his colleagues, and to all crime readers in Japan.


第二回アガサ・クリスティー賞に中里友香さんの『カンパニュラの銀翼』が決定したと聞き大変うれしく思います。
今回のような素晴らしい作品、新たな才能が、今後も日本のミステリ界を繁栄させていくにちがいありません。
私の祖母、「ミステリの女王」アガサ・クリスティーもきっと喜んでいることでしょう。
受賞者の中里友香さんならびに応募者の方々、早川浩代表理事をはじめ財団の皆さん、そして日本のミステリ読者の皆さんのご健勝とご活躍を祈念いたします。

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第二回アガサ・クリスティー賞選評

選評 有栖川有栖
 満場一致で『カンパニュラの銀翼』を受賞作とすることに決まった。二人の男の常な らざる生と死をめぐるファンタジックかつ衒学的な作品で、怪奇ありロマンスありの奇想小説と呼ぶのが最もふさわしいかもしれない。「その難題をいかにして 克服するか」というハウダニット(ハウドゥイット?)の興味も具え、クライマックスは冒険小説的な展開をする。知的でスタイリッシュな大型エンターテイン メントで、早川書房から世に送り出す作品として、まことにふさわしい。才気にあふれた作者の今後に期待するところも大である。
 他の作品についても簡単にコメントを。
『土曜日はチボリ』は、推理の手数が多い(そこは評価したい)本格ものだが、切れ味はよくない。犯人の失言が決め手では新人賞の受賞は厳しい。一方的にま くしたてる探偵という造形も疑問で、作者が推理に自信を持っていればそうはならないはずだ。反論を潰していってこそ名探偵。
『選ばれた楽園』は、テレビドラマのあらすじのようで小説として楽しめない。得意分野を活かした骨太の医療サスペンスになればよかったのだが。致命的なのは、「謎解き」も「捜査」も欠いていることだ。その両方あるいはどちらか一方が描かれているのがミステリー。
『フェルメール・コネクション』は、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』と『天使と悪魔』の露骨な換骨奪胎。労作だが、せめて「変奏」になっていれ ば、と思う。恐るべき敵が名前頼りでハリボテめいており、敵を描かなければ、冒険小説的なリアリティも興奮も生じない。
『さやかは紫陽花の咲く坂で』は、都市伝説をモチーフにした学園ホラータッチの作品。「その目的のためにそんなことをするか?」という結末で、ネタがよく ない。文章にも不備があって完成度は高くないのだが、高校生たちの描き方にはセンスを感じた。この次は、もっといいネタで。


選評 北上次郎
『カンパニュラの銀翼』が採点5、『土曜日はチボリ』が採点4。このどちらかの作品が受賞するなら異論はなし、という態度で選考会に臨んだが、すんなりと前者に軍配があがった。
 この二作に触れる前に、他の三作に触れておくと、まず『さやかは紫陽花の咲く坂で』はミステリーとしても不自然な箇所が気になるが、それより以前に小説 としてどうか。文章が読みにくくて困った。『選ばれた楽園』も同様で、稚拙な表現が散見するのが第一の減点で、さらに登場人物の造形が類型的であり、全体 的に古めかしい。
『フェルメール・コレクション』はこの手の小説が少なかった一九八〇年代前半なら、あるいは成立した小説かもしれないが、現代の小説なら情報以外の何かが屹立していなければならない。主人公が新聞記者であることの必然性が希薄であるのもこの作品の弱みだろう。
 ということで、『土曜日はチボリ』だが、日常の謎を解く連作に見せかけて、徐々に教師殺害事件になだれこんでいくという流れがよく、前半はやや強引なが らもそれなりに読ませて飽きさせない。欠点がないわけではないが、これだけ読ませてくれれば十分だ。ところが他の委員から大変説得力のある批判が提出さ れ、こうなると弁護しにくい。もともと『カンパニュラの銀翼』のほうを高く評価していたこともあり、こちらだけを推すことにした。
 その受賞作はまず構成が群を抜いている。冒頭に出てくる採用試験問題とその回答を読むと、もうこの長篇の世界から抜け出せなくなる。実に巧みな導入部と いっていい。当然ながら全篇を貫く衒学趣味に目を奪われるところだが、難解のようでいて読みやすいのがいいし、幼いクリスティンとエリオットの描写がきら きら光っているように、小説の細部もいいのだ。
 なによりもいいのは、小説を読むことの愉しさがあふれていることだろう。これがいちばん素晴らしい。


選評 鴻巣友季子
 それぞれ作風の異なる五作品が最終候補に残った。
 梗概のおもしろさに惹かれて最初に読み始めたのが、中里友香の『カンパニュラの銀翼』であり、結局、この力作を凌ぐ作品は最後までなかった。小説として明らかに抜きんでていたが、私が一つだけ心配したのはアガサ・クリスティーの名を冠したミステリの賞に適格であるかという点だ。なにしろ本作は、論理学や神学をベースに、ファンタジー、SF、幻想文学、冒険小説の要素をも兼ね備えた、一般的なミステリの枠に収まらないエンターテインメントである。しかしそ の心配は杞憂に終わった。選考会では、一ジャンルの様式にとらわれないスケールの大きさこそが評価の対象になったからだ。十八世紀の欧州と二十世紀初頭の イギリスを舞台に、衒学的でありながら読者をたっぷりと楽しませ、作者自身も存分に遊んでいるところに余裕も感じる(ただし好きな素材をあまり弄びすぎないよう、今後その点だけ注意してください)。回文の訳文などキャロル的な言葉遊びも手が込んでいるし、翻訳文学の文体パロディなどもあり、外国文学好き全 体に広く読者を得るだろう。インセスト、分身、兄妹(姉弟)愛、母の身代わりになる娘といったモチーフをゴシック風味で描くあたりには、ゴシックロマンを 中継し、ミステリ、SF、海洋冒険小説などの先駆けとなったE・A・ポーの刻印が明瞭。去年の受賞作といい、ポーの影響は大きいようだ。
 次点の『土曜日はチボリ』はよく考えられた構成で非常に楽しいが、謎解きのステーションがやや多すぎて驚きが目減りしがち。『フェルメール・コネクション』はこの画家とスピノザを結びつけたアイデアが卓抜。文章全般の質が「梗概的」で小説言語のふくらみに欠けた。『選ばれた楽園』は因果関係が込み入りすぎの感があった。会 話文のリアリティについて再考されたい。『さやかは紫陽花の咲く坂で』は「女の子の友情ホラー」。怖がらせるが、ミステリとしては細部が粗すぎる。学校の怪談といった趣。


選評 小塚麻衣子(ミステリマガジン編集長)
 クリエイティヴィティという点で、『カンパニュラの銀翼』(中里友香)は他の追随を 許さなかった。
圧倒的な情報量と緻密な筆致で構成された恐るべき奇想である。前半が世界観固めにあたるため、やや冗漫で読みにくい印象を受けたが、最後ま で読んでみると、それらのピースも必要な一片であったことがわかった。とくにクライマックスの銀翼のシーンは冒険小説の趣きもあり、まさしく手に汗を握って文字を追った。ドッペルゲンガー、哲学、詩といった衒学趣味の横溢など要素要素も興味深い。もう少し前半で起伏を作ったり、とくにヨーロッパ部分や不思議を扱う部分の設定を明確にしたほうが作品の輪郭をよりはっきりできると思うが、小さな瑕疵だ。ストレートな謎解き小説だけがミステリではないということを思い出させる、多角的な魅力を持った作品である。
『土曜日はチボリ』(工藤智美)は、無理のない滑らかな文章で非常に読みやすかった。週末ごとに寄り集まって推理する設定は『火曜クラブ』のようで、ノスタルジックで心地よい。ただこういう構成にするなら、東京ではなく地方都市を舞台にしたほうが、コージーな閉じた世界での面白さを味わえて、犯行の必然性も出たのではないか。『フェルメール・コネクション』(三品豊、本名宇賀神修)は、タイムリーな画家の話題は秀逸だが、ネオナチにロスチャイルドとワイルドカードを切りすぎて説得力が薄まってしまった。展開に強引なところが多く、要素を削ったほうが自然だったのではと思う。『選ばれた楽園』(横邊愛恵)は、保険金詐欺を扱うなかでも、主人公を診査医に設定するというのが目新しく面白かった。だがそれ以外は昔の二時間サスペンスめいた古めかしい印象で、なぜ今この描き方なのか疑問だった。『さやかは紫陽花の咲く坂で』(藍沢砂糖)は、途中、学園生活の描写などで光るところはあるものの、視点人物を変えていく語りが冒頭から安定していないので、この構成で描き切るには文章力を強化する必要がある。

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第二回アガサ・クリスティー賞選考結果

7月20日(金)、第二回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が、選考委員の有栖川有栖氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、小塚麻衣子・ミステリマガジン編集長の4名により行なわれ、中里友香氏の『カンパニュラの銀翼』が受賞作に決定いたしました。

第二回アガサ・クリスティー賞
中里友香『カンパニュラの銀翼』

1920年代の英国を舞台に、ミステリ、SF、冒険小説、ファンタジイと、あらゆる小説の要素を盛り込んだ、奇想小説。

○受賞者紹介
中里友香(なかざと・ゆか) 
1975年生まれ。2008年『黒十字サナトリウム』で第9回日本SF新人賞受賞。東京都在住。

※審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

第二回アガサ・クリスティー賞二次選考経過

第二回アガサ・クリスティー賞の二次選考が終了しました。

厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。

この後、7月20日に選考委員4人(有栖川有栖氏、北上次郎氏、鴻巣友季子氏、ミステリマガジン編集長)による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。

選考結果および選評は当財団のホームページで発表いたします。また早川書房ホームページ(http://www.hayakawa-online.co.jp/)および「ミステリマガジン」「SFマガジン」の10月号(8月25日発売)でも発表されます。

『さやかは紫陽花の咲く坂で』藍沢 砂糖

『カンパニュラの銀翼』中里 友香

『土曜日はチボリ』工藤 智美

『選ばれた楽園』横邊 愛恵

『フェルメール・コネクション』三品 豊

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

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第二回アガサ・クリスティー賞選考経過

第ニ回アガサ・クリスティー賞の第一次選考が終了しました。
識者による厳正な審査の結果、下記の16作が第一次選考を通過いたしました(到着順、名前はペンネーム、敬称略)。
この後、5月に編集部による第二次選考、7月には選考委員4名による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。
それぞれの結果は、当財団のホームページで発表いたします。また早川書房ホームページおよび、「ミステリマガジン」「SFマガジン」の8月号(6月25日発売)、10月号(8月25日発売)でも発表されます。

第一次選考通過作品
『海月の終―かいげつのつい―』無月 麻衣
『死の理由』嵐林 眼
『コンカニ・チャシ』岡 辰郎
『シーソー』澤柳 司
『さやかは紫陽花の咲く坂で』藍沢 砂糖
『萼の暗証法則に翻す決闘』笠居 小十
『カンパニュラの銀翼』中里 友香
『土曜日はチボリ』工藤 智美
『選ばれた楽園』横邊 愛恵
『とが』大八 弥生丸
『魔術の重さ』唯 蓋尋
『犠牲を纏いし者』谷門 展法
『刑事(でか)とんび』川口 栄幸
『フェルメール・コネクション』三品 豊
『刃刺(はさ)しの権太』村瀬 継弥
『パラドクスの卵』時越 源

*審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。


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第一回アガサ・クリスティー賞贈賞式を開催

10 月17日、明治記念館において、作家、評論家など多くの方々にご列席いただき、第一回アガサ・クリスティー賞の贈賞式が行われました。受賞作『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の著者森晶麿氏に、ゲストとして来日されたアガサ・クリスティーの孫マシュー・プリチャード氏よりクリスティーの肖像が刻まれた正賞の盾が、また当財団代表理事早川浩より副賞100万円が贈られました。

選考委員の北上次郎氏、若竹七海氏による選評に続き、受賞者の森氏が登壇。「本書の原形は7年前に修士論文の執筆と育児に追われながら書いた」というエピソードや、「偉大な先人の名前を冠した賞を受賞したことをステップに、ミステリの高みを目指していきたい」という抱負など、受賞の喜びを語りました。森氏のお嬢様からのお父様に花束プレゼントというサプライズもあり、華やかななかにも和やかな贈賞式となりました。

第一回アガサ・クリスティー賞選評

選評 北上次郎
 ジョイ・フィールディングの作風を想起する『いたずら天使』は、ヒロインの心理的不安、動揺などを軸に描く心理サスペンスで、それなりに読ませる。問題はミステリとしての新しさとパンチに欠けることだろう。『カーニヴァル・デイ』は人間関係が好都合すぎる。ストーリーがどれほど奇妙奇天烈なものであってもかまわないが、人物造形に血が通っていないのは困る。読ませる力は認めるが、そこが推しきれない。
『ユーディット』は、戦前のドイツを舞台にした長篇で、やや読みにくいが、よく言えば独自の世界観を持った作品とも言える。ただし、これは歴史小説ではあってもミステリではないと判断した。
  私が惹かれたのは『顔のない女』。話はどうということはない。それをここまで読ませるのは構成がいいからだ。こちらもサスペンスで、『いたずら天使』と同様によくある話にすぎないが、こちらは見せ方に工夫がある。サスペンスを拒否する風情すらあるのだ。誉めすぎかもしれないが、天童荒太の山本周五郎賞受賞 作『家族狩り』に共通する怖さを連想した。背景の説明不足を他の委員から指摘されたが、それは確信犯だろう。陽介と温子が何も語らないのもその道筋を示し ている。綻びがないわけでもないので強く推しきれなかったが、これで諦めずによりいっそうの奮起を期待したい。
 受賞作の『黒猫の遊歩あるいは美学講義』は、コピーと模倣はどう違うのかということの考察を始めとするペダンチックな講義が読ませる。母親が娘の姿を見つけられなかったのはなぜか、というように謎が小さいが、ポイントは謎の大きさ、派手さではなく、その謎がいかに人間の営みを映し出しているかという点にある。たとえば第五話は、たしかに苦しい謎解きではあるけれど、そこに人間のぎりぎりの営みがあるという点で素晴らしい。個人的には苦手なタイプの作品だが、この素晴らしさは認めなければ なるまい。


選評 若竹七海
  言わずと知れたミステリの女王の名を冠する賞の第一回である。さぞや品格ある「楽しい殺人のおはなし」が…と思ったら、良くも悪くもクリスティーの名にと らわれない作品が最終候補に残ったのには驚かされた。例えば『カーニヴァル・デイ』。少子化対策のため、一日だけレイプが合法化された世界という設定への不快感はさておき、文章はうまいし勢いはあるものの、各シーンのつながりが悪く、設定のわりに読み終えた印象が薄い。『いたずら天使』は子どもの頃から母親を介した性的虐待にさらされてきた女の物語で、こちらは説明不足に加え文章も読みづらいが、徐々に緊迫感が増していくあたりは印象的だった。
『ユーディット』はナチスが台頭してきたヨーロッパを舞台とした歴史小説で、非常に興味深く読んだ。ただし、これだけのスケール、四百枚では短すぎたようで、話は味わいもなくどかどかと進み、映画のシノプシスを読まされているよう。また、父親を殺した真犯人が…という謎の伏線がきちんと敷かれていないなど、いろんな意味でミステリとしての配慮に欠けていた。
『顔のない女』はフランス・ミステリ的な味わいのある銀仮面テーマのサスペンスで、クラシックなあまりかえって新鮮に感じた。出版されるにふさわしい佳作だが、受賞作としての華々しさ、という点では地味で小粒。残念ながら、ポーをモチーフにした連作 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』に一歩、及ばなかった。
 問題は、『黒猫~』でポーのあるミステリの犯人を明かしている点だ。確かに有名な作品だが、知らない人間のほうがどう考えたって多いわけで、ネタばらしは原作に対する敬意と配慮に欠ける。ただしそこさえ直せば、薀蓄さえさわやかに読ませる文章力、魅力的なキャラクターで織り上げられた楽しいミステリで、クリスティー賞にふさわしい作品だと考えた。


選評 小塚麻衣子(ミステリマガジン編集長)
 紛糾してもいいように、当日は釜肉ぶっかけうどん生玉子のせをかきこんで会場に臨んだのだが、予想に反して速やかな選考会となった。まず、飛び抜けたのが『顔のない女』と『黒猫の遊歩あるいは美学講義』。そこで、先に残りの三作についての 検討を行なった。以下、私の意見になるが、『カーニヴァル・デイ』は、随所に爆発的な勢いを感じた。印象的なシーンへ盛り上げていく力はあるが、ストー リーとしての繋がりが悪いので、納得のいかない感が最後までついてまわる。『いたずら天使』は、書きぶりは達者だが、古くさい印象がぬぐえなかった。ラス トをあのようにするなら、もっと信頼できない語り手ものにするなどの工夫もあったのではと思う。『ユーディット』は、先の読めない展開という点では一番 だった。でもそれは本作がミステリではないからかもしれない。フーダニットとしては謎解きがなく、冒険物というには主人公に都合がよすぎる。歴史知識の豊 富さと組み合わせた壮大な構想は評価したいが、あの枚数で描き切れるネタではない。
 つづいて、決勝ともいうべき、『顔のない女』と『黒猫~』の検討だが、私は当初『顔のない女』への評価は高くなかった。筆致は五作中もっとも巧みで、とくに冒頭に提示される謎の掴みはピカイチだったが、謎が完全には解かれず、伏線も回収しきれていないように思われ、消化不良だったのだ。だが、北上・若竹 両選考委員に、これはそういうじわじわとした理不尽な恐怖を楽しむものだと教えられ、納得した。受賞には及ばないが、たとえば文庫などで読みたい佳品だ。 『黒猫~』は、ポー作品の新しい解釈と別の古典と日常の謎を三つ巴にするという著者の意欲に好感が持て、しかもそれが嫌味なく成功している。キャラクター も立っており、文章もこなれていて、総合評価が高かった。ただ、ポーの作品のネタバレがあることは作者と読者に対するマナー違反。作品の出来不出来とは別 だが、これを解決するという条件付きでの受賞となった。

第一回アガサ・クリスティー賞選考結果

7月26日(火)、第1回アガサ・クリスティー賞の最終選考会が、選考委員の北上次郎氏、若竹七海氏、小塚麻衣子・ミステリマガジン編集長の3名により行なわれ、森晶麿氏の『黒猫の遊歩あるいは美学講義』が受賞作に決定いたしました。

第一回アガサ・クリスティー賞
森 晶麿 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』

弱冠24歳の大学教授、通称「黒猫」。美学・芸術学が専門で独自のアプローチで学会に旋風を巻き起こす若き天才教授 が、学生時代の同級生であるポオ研究者の女性とともに、ポオの作品に絡んだ相次ぐ怪事件、難事件に挑む連作ミステリ。

◯受賞者紹介
森晶麿 (もり・あきまろ)
1979年3月5日、静岡県浜松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。漫画脚本・ライトノベルなどを手掛ける。埼玉県所沢市在住。

※審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。

第一回アガサ・クリスティー賞選考経過

第一回アガサ・クリスティー賞は第一次、第二次選考が終了しました。厳正な審査の結果、下記を最終候補作といたします(到着順、名前はペンネーム、敬称 略)。この結果は早川書房のホームページおよび同社発行の雑誌「ミステリマガジン」「SFマガジン」の8月号(6月25日発売)にも掲載されています。
こ の後、7月下旬に選考委員による最終選考会を開催し、受賞作を決定いたします。なお、選考委員を務められる予定だった児玉清氏が先日お亡くなりになりまし たが、代役は立てず、北上次郎氏、若竹七海氏、小塚麻衣子ミステリマガジン編集長の3人が選考にあたります。結果は、当ホームページで発表いたします。ま た早川書房ホームページおよび「ミステリマガジン」「SFマガジン」の10月号(8月25日発売)でも発表されます。

『いたずら天使』城里田 圭
『ユーディット』アンジェラ・マリアンナ
『カーニヴァル・デイ』生倉 亘
『黒猫の遊歩あるいは美学講義』森 晶麿
『顔のない女』永田 豊

※審査の詳細についてのお問い合わせには応じられませんのでご承知ください。